銅のおろし金

大根おろしのように野菜をおろすという調理法は、日本独特のものだそうです。

銅のおろし金の歴史は意外に古く、江戸時代前期の百科辞典『和漢三才図会』の中に「かたちは小さなちり取りのようで、爪刺(目)が起こしてある。わさび、しょうが、甘藷などをする。」という説明が掲載されています。

この純銅のおろし金をつくる職人さんの製作現場を訪ねました。

おろし金をつくるには、まず銅板を型に合わせて切り取り、これをたたいて硬度を高めます。これに縁取りをし、錫めっきをします。

次は「目立て」と呼ばれる工程で、銅板に細かい目(突起)をつける作業です。目は、鏨(たがね)と金槌を使ってつくられます。鏨を板の面に対して45度の角度で、連続的に打ち込んでいきます。その作業はリズミカルで、かつ正確です。そのようすは、伝統工芸の彫金技術のようにもみえます。

こうしてできた目は、どれも同じように見えますが、拡大してみると、じつは少しずつ異なった形をしています。

機械でつくられたおろし金は、目が均一なため、おろしているうちに大根のおろしている面に筋ができてしまい、大根のほうをまわしながらおろさなくてはなりません。その点、手づくりのおろし金はおろすたびに大根に目がかかるので、大根をまわさなくてもよいのです。このあたりが、手づくりならではのよさだといえます。

また、機械でつくるおろし金と手づくりのものとでは、切れ味に大きな違いがあるそうです。切れ味が悪い目で大根をおろすと、大根の繊維と水分が分離をして味が悪くなってしまいます。

手づくりでは、切れ味をよくするため材料に硬質な純銅(りん脱酸銅)を使用するうえに、これをたたいて硬化させています。切れ味がよいと、大根おろしの繊維を細かく切ることができ、繊維と水分を分離せずにおろせます。セラミックやプラスチックのおろし金では、どうしても水っぽさが出やすくなります。銅のおろし金がもつ切れ味があってこそ、まろやかな味をもつ大根おろしができるのです。

市販のおろし金にはアルミニウム製のものもありますが、職人さんによればアルミニウムだとやわらかすぎてシャープな目にならず、また鉄だと硬すぎて手仕事に向かないそうです。つまり銅は、てづくりのおろし金に最適な材料なのです。

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