誤解は、教科書から生まれた!?

 緑青は有毒。この誤解は、どこから生まれたのでしょうか?調べてみてもその理由ははっきりしません。海外の文献を調べても緑青の毒性を訴えているものはなく、この誤解は日本だけの問題のようです。

 ただ、その理由のひとつに学校の教科書の記述に問題があったようです。

 戦後の小学校の教科書「五年生の理科/金属のさび」には「銅のさびの一種である緑青には毒性がある」と書かれています。

 更に、昭和49年の理科の教科書には、金属のさびという項目があり、緑青について次のように述べられています。「しめり気の多いところに銅を置くと、緑色のさびができる。このさびを緑青といって食べると身体に害がある」と記述されていました。

 しかし、どうして害になるのかの記述はありませんし、当時のほとんどの百科辞典も同様の記述をしていました。「緑青は有毒」の誤解は、これらの記述イメージが強く、長く消えなかったためではないかと考えられています。東京大学医学部衛生学教室の元教授・豊川行平氏は、「緑青のグリーンが毒々しく見えたから、いつのまにか毒だと信じ込んでしまったのではないでしょうか」と語っています。

 東京大学で行われた数多くの海外文献調査によれば、これらの説を否定するような非常に多くの研究文献が見出され、1754年の古い論文ではEllerにより無毒性が論断され、また1883年Arwand Gautierは過去幾世紀にわたり信じられてきた銅の毒性物質であることを否定した研究論文を発表し、その他の諸文献においてもその大部分が毒性を否定しています。

 現代医学においても、銅は生体に貴重な効用を持つものとしてますます重要性を帯び、とくに貧血の予防と治療に重要なものとなっています。また、殺菌剤、飲料水、食品、飼料など広い分野にわたっても銅の重要性を示す多くの研究論文も出され、また1965年の国際シンポジウムで海外の各権威筋によって銅が土壌、植物、動物の生態学的関係において学問的および応用研究の成果につき討議され、生命の糧としての銅の貴重な役割について高い評価と確認がなされています。

 一方わが国の実情をみると銅は本来、植物の中にも多量に含まれ、また日本薬局方においては増血剤、吐剤として硫酸銅が収載され、それも安全性の高い普通薬として扱われています。また、銅が水道管や、銅を中心とした各種の厨房品などにその良い耐食性やその他優れた特性を発揮し、あるいは各種の資料のミネラル添加剤として硫酸銅がますます重要になっています。

 このように純工業以外の分野で銅が使用されている実態に対し、わが国でも、銅・緑青の毒性についてその歴史的渕源は明らかではないが、相当古くから信じられ、現在に及んでいます。

 一般の人の最も基本的な知識の媒体となる小学理科教科書については、その制作の基準となる文部省の学習指導要領が昭和46年度に新たに改訂され従来の生活理科から、いくらか科学的な思考の要素を重視する方向に転換してきた面もあって現在では「有毒性」を強調しない内容のものに変更されました。

 一方、実際に銅・緑青が害毒を及ぼした事例を調べてみても納得のいく例証には大変乏しいといえます。これには種々の考え方もあると思われますが、おそらくは単に銅が錆びて緑青になるとその色彩が毒々しい感じを与えることがそう信じさせる有力な理由となっていると考えられます。

 最近までの銅・緑青に関する衛生学的研究の成果からみて、むしろ意外な感じを得ますが、今日の科学と医学の進歩、人知の発展によって多くの伝統的な迷信や無知により妄想などが氷解されつつある現代において、旧態依然の銅・緑青の有毒説や出版物などにみる間違った有毒性もやがて是認されすでに全面改訂されつつあります。

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