アルツハイマー病への銅利用

甲南大学の杉本直己教授 難病といわれているアルツハイマー病。その治療にひと筋の光が見えてきました。2001年4月の日本経済新聞に「アルツハイマーの病変たんぱく質、銅イオン投与で抑制」という記事が出ました。

 現在、日本には60万人のアルツハイマー病患者がいると推定されています。80歳以上では5人に1人が発症するといわれる身近な病気です。最近では40歳代くらいから発症する若年性アルツハイマー病も話題となっています。

 アルツハイマー病の原因は、正常な状態ならすぐに分解されるたんぱく質が脳に沈着して固まり、神経細胞を侵すからだと考えられています。甲南大学・杉本直己教授の実験によって、このアルツハイマー病変たんぱく質に銅イオンを投与すると、銅とたんぱく質のアミノ酸の一部が結合し、たんぱく質の増加が抑制されることが確認されたのです。

 銅と脳?なかなか結びつけることができませんが、どういう発想で銅イオンに着目したのでしょうか。杉本教授はこの実験についてこうコメントしています。

 『もともとDNAやRNAに金属イオンがどのような影響を与えるかを考察する一環で、たんぱく質の構造変化も見てみようと今回の実験ははじまりました。そこで、たんぱく質に反応する蛍光体の発光強度を調べる方法で確かめました。すると、銅イオンのない場合にはたんぱく質の沈殿が起こって線維状のものが出ます。これにくらべ、銅イオンが最初からあった場合には、これがほとんど生まれていない。それで銅イオンがアルツハイマー病のたんぱく質を回復というか、構造を逆向きに戻すことが可能だということを見つけ出しました』

 さらに実験の結果、たんぱく質の沈着が進み、生成量が増えたあと、銅イオンを投与すると、発光強度が大幅に下がることも確認されました。杉本教授は「さまざまな金属イオンで実験してみましたが、銅がもっとも効果が高かった」といいます。

 そしてその後、銅イオンのたんぱく質への抑制効果は、アルツハイマー病ばかりではなく、プリオン病、狂牛病、クロイツフェル・ヤコブ病などにもうまく働くことが確認されました。

 いますぐ、これら難病の治療法として銅を人間の体に直接投与することはできませんが、銅イオンが持つ抑制効果の原理は、難病の治療薬作りに応用できるものと期待されています。

たんぱく質生成量と銅イオンの関係

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